アイおはようございます。「ゴングが鳴るまでの人生ー生きざま伝ー」第3回です。今回は空手界から、新極真会の鈴木未紘。10月10日と11日、東京体育館の第58回全日本空手道選手権で、全日本4連覇に挑む21歳です。
ベンはい。そして先に言ってしまうと、この人はいま日本のフルコンタクト空手で「負けない」ことにおいて別格の存在です。公式の連載記事によれば、2022年12月から続く連続優勝記録を8に伸ばした、とあります。今日はその強さが、どんな人生から生まれたのかを辿ります。
アイでは、生まれから。どんな家に育った人なんでしょう。
ベン空手の家です。父は鈴木国博。第8回全世界選手権を制した世界王者で、いまは新極真会の厚木・赤羽支部長です。
ベンそして母親もまた、全日本女子ライトコンタクトの王者でした。両親ともにチャンピオンなんです。
アイ文字どおりのサラブレッド。子どもの頃から強かったんですか。
ベンジュニアの最高峰大会、カラテドリームフェスティバルで9度の優勝。公式プロフィールに載る数字です。ただ、この一家の物語で最初に立ち止まりたいのは、優勝の数ではないんです。2019年、未紘さんが13歳のときのことです。
アイ何があったんでしょう。
ベン父・国博さんが白血病と診断されます。春から入院して治療を受け、公式サイトの闘病報告には「予断を許さない状況は続いている」と書かれるほどでした。その闘病のさなか、JFKOの全日本大会の演武に、未紘さんと妹の成実さんが姉妹で登場するんです。娘たちの模範組手を、父は病床から動画で見ていました。「動画で見させていただきました。こういう機会を作っていただきありがとうございました。ふたりも喜んでいました。」
アイ父の病と闘う時間の中で、娘たちは道着を着て人前に立っていたんですね。
ベンええ。国博さんはその後、闘い抜きます。2020年には「白血病と闘い抜く武道家としての姿勢」が評価されて、新極真賞を受賞しました。
ベンそして2021年の秋、生還して初めて公の場に道着姿で戻ってきます。イベントの司会進行役として、です。そのとき52歳の国博さんが残した言葉が「このように生徒たちが発表できる場があり、嬉しい限り」。自分の病より先に、道場の生徒の話をする人なんです。
アイその背中を見て育った長女が、高校生になって一般の舞台に上がる。
ベン2021年12月、第53回全日本。16歳での初出場でいきなり決勝まで勝ち上がります。ただ、決勝で久保田千尋選手に敗れて準優勝。試合後の言葉が残っています。「勝ちたい気持ちが強すぎて、自分の組手が出来なかった」。
アイ16歳で全日本の決勝。それでも悔しさしか残らなかった。
ベン翌2022年12月の第54回全日本で、その悔しさを回収します。初優勝。父に続く親子での全日本制覇です。「去年から悔しい思いをしてきたんですが、たくさんの人が支えてくれて、こうやって優勝することが出来て本当に嬉しい」。そして、いま思えばここが起点でした。この2022年12月から、鈴木未紘は公式戦で負けていません。
アイそこから世界へ。
ベン2023年10月、103カ国が参加した第13回全世界選手権。18歳の高校3年生で無差別級の頂点に立ちます。全世界選手権史上、最年少での優勝でした。決勝の相手は同じ日本の網川来夢選手。延長までもつれて判定5-0です。
アイ18歳で世界一。優勝スピーチが話題になったそうですね。
ベン涙ながらに、こう語っています。「今、世界ではまだ戦争をしているところがあります。私はこの新極真空手を見て、勇気や感動をもらい元気になりました。今度は私が勇気や感動、そして何かを与えられる、そんなような選手になっていきたいと思います」。
アイ18歳の世界王者が、もう「与える側」の話をしている。
ベンただ、王者であり続けることは、獲ることより過酷でした。2024年10月の第56回全日本の決勝を見てください。相手は目代結菜選手。本戦で決まらず、延長0-0、再延長でも旗が割れ、体重判定でも決着がつかない。最終延長までもつれて、ようやく5-0。ここまでやって、やっと守れる連覇なんです。
アイ無敗と言っても、楽な無敗ではまったくない。
ベン2025年10月の第57回は、決勝で藤原桃萌選手と真っ向からの打ち合いになって、本戦4-0。これで全日本3連覇です。
ベン今年に入っても止まりません。5月のJFKO全日本、そして7月のKCCと勝ち続けて、KCC2連覇と10大会連続優勝という数字に到達しました。
ベンこの連勝の内側を、本人がこう語っています。「負けたら今まで積み上げたものがすべて崩れると思っていたので」「自分の中では『負け=死』くらいの気持ちがあるので」。
アイ負けイコール死。重い言葉です。誰と戦っているんでしょうね、もう。
ベンまさにそれを本人が言っています。今年7月の公式インタビューで「映像の鈴木未紘に今の自分がどう勝つかを考えるんです」。対戦相手の研究ではなく、過去の自分に勝つ研究です。絶対王者の孤独と楽しさが、この一言に詰まっていると思います。
アイ過去の自分が仮想敵。そしてこの物語には、もう一人の主役がいますよね。
ベン妹の成実さんです。今年5月31日のJFKO全日本で、高校に入ったばかりの15歳が一般の部に初出場して、初優勝しました。そしてその直後、これから決勝を戦う姉に向かってこう言ったんです。「最高のバトンを渡せたと思うので、絶対にダブル優勝しましょう」。
アイそれで姉は。
ベンもちろん優勝です。姉妹そろってのダブル優勝。未紘さんは「姉妹で優勝することが一番の親孝行になると思ったので、成実と優勝できてよかったです」と語りました。父の病を一緒にくぐり抜けた家族の、これが今の形です。
アイいい話で終わりそうですが、終わらないんですよね。
ベン終わりません。同じ日、成実さんは10月の全日本を見据えて、こう宣戦布告しています。「私が姉を倒します」。
ベンそして9月1日、第58回全日本の組み合わせが発表されました。姉妹はともに女子無差別級にエントリーしています。姉の4連覇を止める候補の一人が、実の妹なんです。
アイ同じ家で育って、同じ道場で、同じ頂点を目指す。
ベン未紘さん自身は今年の目標をこう言い切っています。「JFKO、まだ正式には決まっていないですけどKCC、全日本。必ずすべて優勝します」。JFKOもKCCも、もう獲りました。残っているのは全日本だけ。勝てば全日本4連覇です。
ベン下突きと下段廻し蹴りを軸に、前へ出続ける空手。世界王者の父から受け継ぎ、母に磨かれ、妹に追われる21歳が、10月10日、東京体育館に立ちます。
アイ鈴木未紘、全日本4連覇への挑戦は10月10日・11日、第58回全日本空手道選手権です。当サイトでは大会当日、注目選手の勝ち上がりを随時お伝えします。ベンさん、ありがとうございました!
ベンありがとうございました。
アイそれでは次回も、ゴングが鳴るまでの人生でお会いしましょう。